その日から僕は松川に懐かれ、松川はことある事に僕に絡んできた。しかも2学期最初の席替えでは、くじで僕の席の前に松川が来てしまい、班まで同じになってしまった。「僕たちって運命共同体なのかもね!」と松川はそんなセリフを恥ずかしげも無く言う。「ヤメロ…」と僕が返すと、「またまたぁ、照れちゃって〜」と返って来る。授業中、僕が眠くなるものならどこでそれを察知しているのか、わざわざ振り返ってきては「芸能人とは、いかなる時も美顔をキープしなければいけないよ佐野クン」だの「佐野クンって案外間抜け面なんだね」だの、余計なことばかり言ってくる。本人は楽しそうだが僕は1ミリも楽しくない。松川と同じ班になってから、毎日こんな調子だから学校が終わってお稽古に行く頃には酷く疲れてしまう。挙句の果てに、松川は僕のことを「僕の次にかっこいい佐野クン」と呼ぶようになってしまった。因みに、僕が自分とは何かを分析した「自分研究」は2学期最初に行われた夏休みの課題展示会の際、同級生たちからは大変不評というか見事に笑いものとなった。先生たちからは「芸能生活が始まった佐野らしくて大変よい」と評価を貰ったけど、同級生たちには通じなかったようだ。ただ、ここでもやはり松川からは大好評で、「やっぱり佐野クンは僕と同じなんだ!」と日に日に絡みは濃くなっていった。

「松川ってなんでそんなに自分が大好きなわけ」  ある日の図工の時間、僕は粘土をこねながら松川に聞いた。 「そんなの、僕が世界一かっこいいからに決まってるじゃあないか」  即答。別にかっこよくはないけど。…なんて言うわけもなく余計な事を口走ると松川はまた調子に乗って面倒くさい為、僕は「そっすか…」とだけ答えた。すると松川は何かを閃き、目を輝かせながら 「そうだ!そんなに僕に憧れているなら、僕になり切ってみるといい!」と大きな声で言い出し、図工室は笑いに包まれた。こうならない為の塩対応だったのに松川には効果なしどころか逆効果だ。 「声がでかい!やだよ!てか憧れてねーし!」 「まあまあ、物は試しだよ佐野クン。君が俳優の卵なら、僕になりきることなんて余裕だろう」 「無理無理!そんなん俺のキャラじゃねえ」 「はあ…。僕の次にかっこいい佐野クンは大手プロダクションの超有名一流俳優なのに一般人の僕の真似すらできないんだね、あーあ、残念だなあ。まあ僕は唯一の存在だから真似っ子できないのは当然か。仕方ないね」  うっ。この野郎。痛いところを突いてくる。しかも嫌味を悪気なく言ってくるもんだからタチが悪い。 「分かったよ…やるから…放課後な」  僕は他のクラスメイトに聞かれないように、松川にこっそり耳打ちをした。 「それじゃ、楽しみにしているね!」

「なんで2人共いるんだよ」  誰にも聞かれないように耳打ちをしたはずだが、そこにはながちゃんと畑中さんもいた。 「佐野クン…まさか僕と2人きりになりたかったとか?そんな…ダイタン…僕たちだけの秘密にするにはあまりにも勿体ないから、長居くんと畑中さんも招待しておいたよ」 「どーもー」ながちゃんと畑中さんは待ってましたと言わんばかりの大きな拍手と笑顔で僕を迎え入れる。 「どーもーじゃねえよ…全く、君たちいい加減にしたまえよ、この僕が相手をしてあげてるんだからね」 「えっ」 「それまさか松川の真似?いきなり?!」 「すげー!!」 「松川くんと言ったね、ん〜、君もなかなかハンサムだけど、僕の方が圧倒的にかっこよくて容姿端麗だなあ。世の中の全ての人間が僕に嫉妬してしまう、ああ、僕ってばなんて罪な男なんだろう」  松川は唖然とし、ながちゃんと畑中さんは笑い転げる。 「はい、終わり。これでいいね」 「すごすぎてびっくりした…!さのっちってまじでテレビに出る人なんだ…。松川、ほら、なんか言えよ」  と、ながちゃんは笑いながら松川の方を見る。松川は 「ああ、なんてこと…!やはりこの僕が目を付けただけある。佐野クン、君は本当に素晴らしいよ!」 と感動している。 「そういえばさ」  僕はずっと疑問に思っていたことを松川に聞いた。 「松川ってあそびっと見てないの?」 すると松川は 「佐野クンってば僕があんなお子様向けの番組を見ると思うかい?まあ実際、君はお子様だからね。因みに僕が好きなのは豪華でエレガントでシックでセレブリティな海外の…」  しまった。松川は1聞いたら1000返ってくる性格だということをすっかり忘れていた。  しばらくして 一通り喋って満足したらしい松川はようやく 「なぜだい?」  と答えた。 「いや、松川のその性格なら俺より芸能人向いてるんじゃないかなって」  これはお世辞ではない。松川はありえないぐらいの大大大ナルシストだけどこれはキャラではなく彼の生まれ持った個性、そして周りに何を言われても動じない芯の強さ、正直全然かっこよくはないしキラキラもしていないけれど、このぐらい図々しくて自分が大好きで堂々としている人間の方が僕よりずっとあそびっとに向いているのではないだろうか。僕は本心からそう思っていた。 「佐野クン、きみ、まさか僕のことをそんな風に思ってくれていたなんて…」  ヨヨヨ…と松川は嘘泣きをする。 「でもね、悪いけど僕は芸能界に全く興味がないんだよ。だって、かっこよくてスタイルがよくて人類の誰よりも美しいこの僕がテレビに出てみなよ。世界中が僕という存在を放っておけないだろう。それでは僕が疲れてしまうからね。」  松川は本当に芸能界に興味が無いようだ。でもそれが彼にとって幸せなのだろう。松川の次から次へと言葉が出てくるお喋りの才能と頭の回転の良さを僕は本当に尊敬する。僕には一生かかってもできそうにない。 「うっぜー」  僕は笑いながら松川を軽くどつく。気が付けばもう家の前まで来ていた。 「じゃあまた明日」  と手を振ると3人も「じゃあねー」と手を振る。  家に入っても3人の笑い声はしばらく聞こえていた。