▽ 僕たち3年3組の担任の先生はドッジボールマニアなので、よく授業を潰してまでその時間をわざわざドッジボールに当てる。「今日授業めんどいな〜…ドッジボールするか!」という先生の言動は割と定番なのだが(良いのか、それで…思うことはもちろんある)、最近では一部のクラスメイトたちもわざわざ学校のない土曜日のお昼から学校のグラウンドに来ては夕方のサイレンが鳴るまでドッジボールをしているらしい。試合には参加しないけど応援に行くとか、別の遊具で遊ぶとか、ただお喋りをするだけとか、試合参加する生徒達も試合に飽きたらお菓子を食べながらそれぞれが持ってきた携帯ゲームをしたり鬼ごっこやケイドロをするなど、その時々のみんなの気分で変動はあるものの、3年3組のクラスメイトたちは何かと土曜日を学校のグラウンドで過ごしがちだ。学校の近くには駄菓子屋があるので、皆学校に寄る前に駄菓子屋を買って行き、そこでばったり会った他のクラスの男子たちが「俺らも入っていい?」と、他クラス合流戦にもなる時も少なくはないのだが、いかんせん土曜日の女子生徒の参加率はかなり低い。やはり男子の投げるボールは怖いようだ。 僕たち3人はというと、僕とながちゃんは試合に参加したいタイプで、畑中さんは僕とながちゃんに付いてくるものの、グラウンドに着くと試合に参加しない女子生徒たちとお喋りをしたり、1人で本を読んだりと試合に参加することは無い。僕は基本的に試合に参加しているのだがスターストームに所属するようになり、覚えなきゃいけない台本がある時は試合に参加せずにコートから外れて暗記に集中する時もある。家の中は誘惑物が多く、気が散ってなかなか集中できないので外に出るスタイルが僕には向いていた。そんな僕を見て同級生の男子たちは「さのっちもすっかりユーメージンになっちゃって〜」などとからかってくる。 この日の僕はとりあえず気分転換に一試合だけ参加した後、遊具の上の座るスペースで駄菓子屋で買ったお菓子を食べながら台本を読んでいた。いつもならこの遊具も子供たちでいっぱいなのだが、土曜日は3年3組の生徒と他クラスの僅かな男子生徒しかいないので独占し放題である。 「さのっちー!」遊具の下からながちゃんが手を振る。 「おー、頑張れ〜」と僕も手を振り返し、再び台本に目をやる。 もう何試合したのだろうか、ながちゃんと畑中さんが遊具の上に登ってくる。 「勝った?」 「ヨユー!5連勝!」 「すげえ」 「セリフ覚えた?」 「ぜーんぜん。今日暑いしダメ」 「家でやればいいのに」 「家だと眠くなるもん」 「わがままハイユーだなあ」 「あ、そうだ。あのさ、俺ってどんな人?」 突然聞かれたながちゃんと畑中さんはぽかんとしている。 「え?どした急に」 「いや実はさ…」 僕は自分研究の話をすると、2人は 「あっはは、さのっちそれ『ナルシスト』って言うんだよ!」と笑いだした。 「え、何?ナルシストって」 「自分大好きってこと。まー、松川みたいなカンジ!」 松川とは僕たちと同じクラスの男子のことだ。彼はとにかく自分のことが大好きで、4月の自己紹介の紙の好きな物の欄には「自分」と書き、書道の授業でも「自分の好きな言葉を自由に書きなさい」というテーマに対し、こちらにも堂々と「自分」と書いて提出して学年中の話題となった。アニメや漫画でしか見たことのないような凄まじいナルシストで、口調すら語尾に「したまえ」をよく使う。常に鏡を常備しており、暇さえあれば鏡を見てはうっとりしている。僕は松川のことを変な奴だと思っていたけれどこういう奴のことをナルシストと言うんだ、やっぱり畑中さんって物知りだなと感心しつつ、そんな奴と僕が一緒だなんて!冗談じゃない!と機嫌が悪くなった。 「松川と俺が一緒?!」 「自分研究するんでしょ」 「これは分析であって!」 そう言い返すと「僕に何か用かな?」と背後から声がする。 「ゲ!」 松川だ。台本を読んでいて今日のメンバーを把握していなかったが、彼も今日、ドッジボールに来ていたのか…。 「なァーーに佐野クンがこの僕に憧れているって?」 「言ってない」 「キミも俳優の卵ならば、ン〜仕方ない、僕が特別にキミにかっこよさのレッスンをしてあげようじゃないか」 「いらねえし!あっコラ!逃げるなお前ら!」 ながちゃんと畑中さんは笑いながら遊具を降りて行った。