数ヶ月に渡る稽古を詰み、いよいよオーディション本番となった。オーディションはスターストームの本社で行われた。申し訳ないのだが、緊張のあまり今となってはこの時のオーディションのことは殆ど覚えていない。練習でやったことを大勢の大人たちの前でひたすらこなすだけで、個性のアピールなんかやる余裕など無かった。完全にダメだったと思っていたけどオーディションに合格してしまった。書類選考の合格の時は1日中飛び跳ねて大騒ぎをしていたのに、いざ実際に合格するとなるとまるで夢の中にいるような感覚で現実が信じられず、2日程は「俺本当にスターストームに合格したの?有名人になったの?」と疑っていた。それでも2日後からは「本当にスターストームに合格したんだ!」と喜んでいた。

「佐野くんが芸能事務所に所属することになりました。」  ある日の朝の会で先生はクラスのみんなに僕のこれからのことを話してくれた。 「えー!」「うそ?!」「さのっちまじ?」「すげー!」「有名人ってこと?」「サインちょうだい!」当然クラス中は驚きの声で溢れかえり、僕は一瞬にしてクラスメイトたちの視線を集めた。 「はい!静かに!佐野くんにはこれから色んなお仕事が入ってくると思います。もしかしたら今後学校を休んだり来れない日もあるかも知れないけど、みんなのお友達であることには変わりありません。で、ここからが大切なことだから先生と約束して欲しいことがあります。先生の目を見てよく聞いてね。」  言葉を選びながら、クラス全員にしっかり伝わるように先生は続ける。 「佐野くんのことを応援することはすごくいいことです。でも、サインや仕事のことばかり聞かれると佐野くんが困ることもあります。学校は勉強をするところ、そしてお友達と楽しく遊ぶところ。芸能界はすごくキラキラしているように見えるけど友達と遊ぶところではなくお仕事をするところ。佐野くんはみんなより早くお仕事をするようになったけど学校ではみんなと楽しくお勉強をするところです。だから学校ではあまりお仕事の話はしないであげてね。」  先生の言葉は暖かく、そして有難かった。スターストームに合格したことは嬉しかったけど、やっぱりクラスのみんなにお知らせをするとなるとドキドキする。特別な存在になることや、それ知ってすごいと言ってくれることは嬉しいけど、僕という存在には何の変わりもないのでいきなり特別扱いをされたくなかったのだ。とはいえ僕もみんなも小学1年生。やっぱりクラスメイトの中には「いつテレビに出るん?」と聞いてくる子もいれば、サインをねだってくる子もいた。