僕があそびっとに加入したのは小学校4年生の時。自分で言うのも何だが、元々目立つことが好きだった僕は昔から保育園や小学校のクラスのムードメーカーだった。面白いことを言うとみんなが笑ってくれる。それが気持ちよかった。
小学校に上がって学校生活にもすっかり慣れた頃、僕は地元の小さい劇場の小さい劇団に所属した。と言っても普通の小学生が放課後スポーツクラブに参加していたりピアノや水泳、習字や塾に行くような言わば習い事の一つだ。僕は声を出すことが大好きだった。音楽の授業も好きだったけど、特に国語の授業やお楽しみ会での劇で特定の役を演じることに魅力を感じていた。僕じゃない誰かになりきることが心から楽しかった。両親の「大人に揉まれて社会を知りなさい」という教育方針もあったらしいのだがそれは二の次で、それ以前に僕が何かを演じることが大好きだということを知っていたので劇団に所属することには賛成だったようだ。とはいえ小さい街の小さい劇団なので、普段の活動はというと地域のお祭りのステージやお化け屋敷のおばけ役が多かったけど、とにかく楽しい日々を送っていた。劇場でのお稽古は水曜日と土曜日だけなので、それ以外の日は夕方のサイレンが鳴るまで友達と遊び呆けていた。そして家に帰ると決まってテレビをつけて見ていたのは「あそびっとスクール」。架空の学校を舞台とした子供向けバラエティ番組だ。当時、子供たちが見る番組といえばそれが定番だった。その中にしょうくんはいた。あそびっとの中にいるしょうくんに夢中になった当時の僕は小学校1年生、しょうくんは3年生だった。
当時のしょうくんは番組最年少で、同年代の男の子と比べたら少し大人しいタイプの子だったけれど、最年少ということもありみんなの弟的ポジションで可愛がられていた。そして小学校3年生ながらにどこかクールな性格で、僕とは真逆の性格だと幼いながらに感じていた。しょうくんは僕たちの学校の女の子にすごく人気があった。クラスの女の子たちは毎日のように「昨日のあそびっと見た?」「しょうくんやばかった」と興奮していた。そして僕も、しょうくんに強い憧れを持っていたけど「男の子が男の子に憧れているなんて」と、からかわれる気がしていたので誰にも言えず、自分だけの秘密にしていた。 「佐野さん、スターストームのオーディションにご興味ありませんか?」
ある日の稽古終わりに、先生はお迎えに来た僕の母親に声をかけた。スターストームとは大手芸能事務所だ。幼い僕にはそれがどんなにすごいことなのか分からなかったけど、母親はすごくびっくりしていて「うちの子が?!先生、何かの間違いじゃ…」なんて言っていた。聞いた話によると、どうやら僕の演技が劇場から始まり地域の人達からも好評で、それを見兼ねた先生が僕のこれからのステップアップとしてスターストームのオーディションに受けてみないかと提案した、といった流れらしい。スターストームには子役養成システムがあるらしく、いつか子役から大人になっても将来的に役者として食いっぱぐれないようアフターサポートが充実してるとかなんとか…。一通りの経緯を教えて貰ったけれど小学校1年生の僕にはよく分からなかった。スターストームがどういう所なのかは分からないけど、そこに入ればどうやら有名人になれるらしい!
まずは書類選考だが、これは殆ど母に任せっきりだった為僕は何もしていない。必要書類をスターストームに提出をして数週間後、合格通知が届いた。僕は人生で初めて見た「合格」という文字に大喜びをし、底が抜けるのではというぐらい1日中家の中を飛び跳ねていた。実は書類を送ってすぐの土曜日から僕のお稽古はスターストームのオーディション対策中心のメニューを先生と一緒に組んでおり、僕は日々そのメニューをこなしていた。当時の僕はなかなかの自信過剰な性格だった為、自分が落ちることなど全く考えていなかったけど、それを察知していた母からはスターストームに合格する人の方が少ないんだよ、でも仮にダメだったとしてもその努力は絶対に今後のお芝居に役に立つので無駄ではないんだよと、何度も言われていた。
オーディション対策メニューは僕自身の自己紹介から始まり、台詞暗記に表情演技、あとは軽く雑談なんかもあるそうだ。雑談は大好きだから変なことを言わないことだけを心掛けるだけで特に問題はなかったけれど、僕は台詞暗記と表情演技がかなり苦手だった。意外かも知れないが、僕は自信過剰のくせに物凄く緊張しやすい性格で、特に台詞の暗記が弱くよく本番で台詞が飛んでいた。その度舞台上では即興のアドリブで対応していた為、逆にアドリブ力はかなり強いのだが地元の小さい劇場ならともかく、プロの世界となると台詞を忘れるということはかなり致命的だ。表情演技だって色んな人が見ている中で泣いたり怒ったりするのは恥ずかしい。有名人になるって難しい…。