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僕が前回のあそびっとのオーディションに落ちてからちょうど1年が経った。あの日の悔しさを忘れることができずに再度応募をしてからしばらく経ったある日、NIC☺︎から合格通知が届いた。ひとまず安心。とはいえこれは書類選考通過の通知だ。昨年も書類選考は通過し、一次審査まで進んでいたから今年もまあ大丈夫だろうと正直余裕をかましていた。それと同時に今年の僕は昨年よりも真剣に芸事に取り組むようになっていたのと、やっぱりスターストームに所属しているというプライドがものすごく高かったので「スタスト所属のくせにダメだったら恥ずかしくて死んでしまいそう」という不安も抱いていた。そのプライドの高さから、前回のあそびっとのオーディションに落ちた時はショックでもう二度とあそびっとなんか見ないと誓っていたけど、結局ながちゃんや畑中さん、そして松川と関わっていくうちにその悔しさはリベンジしたいという気持ちに変わっていった。合格通知を受け取った日からの僕の闘争心は以前よりももっともっと強くなっていた。

一次審査はNIC☺︎の本社で行われた。質疑応答も昨年とは少し変更されており、昨年は自己紹介の後に思う存分自由に自己アピールをしてくださいというものだったが、今年は「君はあそびっとの中に好きなメンバーはいますか?」という質問をされた。僕が「五十嵐しょうくんです」と答えると、審査員は「では佐野くんが五十嵐くんに絶対に負けていないと思うところは?」と聞かれた。あそびっとのオーディションは一次審査、二次審査共に「これは絶対に聞かれるよ」という質問がはっきりしていない。これはマネージャーや宇都美先生から何度も聞いており、対策法は過去に聞かれた質問を基に更にどんな変化球が来るかを自分で考えておく必要があった。一応、宇都美先生とのやり取りの中で、「佐野くんだけが持っている強みは?」という候補はあったけどオーディション当日は緊張している為その質問と事前に予想していたものが同じような質問であるとは区別できず、でも僕は自信満々に「明るいところです!」と答えた。練習していた答えではなかったけれど、それが僕の素直な回答だった。それでもオーディションを終えてから、あまりにも普通すぎる回答だったなという不安が日に日に増していくのでやっぱり今年もダメだと落ち込んでいたところ、マネージャーから「佐野くん!一次審査、通過したよ!」と知らされた。 「え」 「あそびっとの一次審査、通過したんだよ!」  放心状態になって頭が回らない僕に、マネージャーは合格通知書を見せてくれた。 「ほらここ」

この度は、弊局番組『あそびっとスクール』新規レギュラーメンバー募集にご応募いただき、誠にありがとうございました。 厳正なる審査の結果、貴殿は一次審査を通過されましたことを、ここにご通知申し上げます。 つきましては、今後予定しております二次審査に関するご案内を、追ってご連絡差し上げますので所属事務所様を通じてご確認くださいますようお願い申し上げます。 引き続き、どうぞよろしくお願い致します。   株式会社NIC☺︎ 放送事業部 『あそびっとスクール』制作担当一同

マネージャーは合格通知の書類を指でなぞりながら僕に読んでくた。 「一次審査を通過…」  マネージャーは「おめでとう」と言ってくれだが、「でもまだ二次審査もあるからね、気は抜けないよ」と付け加えた。そうだ、まだここで浮かれてはいけない。一次審査合格はほんの通過点だ。

この日から僕は意識的にあそびっとを見るようになった。結局、あの日から丸1年もあそびっとを見ることができなかったけど、今はもうそんなことを言ってられない。1年ぶりに見たしょうくんは小学校5年生になり、背が少しだけ伸びた気がする。どうしてもあそびっとのメンバーになりたい。その思いから僕はこれまで意識していなかった、しょうくん以外のあそびっとの現役メンバーの所作、立ち振る舞い、声のトーン、会話の咄嗟の切り返し、表情やリアクションなどにも目を向けるようになった。自分と似たような性格のメンバーの長所や、これはもっとこうしたら良いのではという気付きを自分なりに改変し、それも自分の良さとして取り入れるように心がけた。  二次審査も一次審査同様、NIC☺︎の本社で行われた。審査員は前回は3人体制だったけれど、最終審査ということもあり、白髪混じりの男性が1人増えていた。僕の父親よりも少し上だろうか、3人の審査員の中でも一番歳を重ねて見えるのできっとえらい人なのだろう。  自己紹介が終わり、いよいよ最後の『何が来るか分からない』時間が始まった。緊張はずっと前からピークに達している。すぐに審査員の1人が 「じゃあ、何でもいいからなんか歌、歌ってみて」  と言った。予想外だった。正しくは想定内で想定外。最終審査ということで、僕はもっとイレギュラーな要求を予想していた。あそびっとには子役達が番組内でソロ曲やユニット曲を収録している企画もあるので歌を歌うという予想はできていた。しかし。あがり症の僕はこの時の為にずっと練習していたあそびっとのオリジナルソング、「かがやきのつばさ」を歌うことをすっかり忘れてしまっていた。「かがやきのつばさ」はあそびっとスクール、シーズン1のエンディング曲で人気の定番曲だが音程を取るのが非常に難しい。だから僕は一生懸命練習をした、とっておきの歌だった。  緊張のあまり、歌を歌うとは…?というわけのわからない思考に陥った僕は何を思ったのか、昨日音楽の授業で歌った「はじめまして、君と僕」を歌った。

♪ 僕は まだなにも知らない  君と 君と 君と 君のことだって  出会ったばかりだけど、友達になれるよ きっと

授業でこの歌を歌う時、「君と」の部分はクラスメイトたちが近くにいる人たちを指さしており、僕はそれが楽しくて大好きだった為、ついいつもの癖で審査員たち1人1人を指さしていった。 やりすぎた。最悪だ。確実に落ちた。歌い終わり、「ありがとうございました」と一礼をしながら僕は絶望的な気持ちでいっぱいだった。審査員たちも「はい、どうもありがとう」と言ってくれたが、僕は怖くて誰の顔も見ることができなかった。俺って何歌う予定だったんだっけ?なんで昨日の授業の歌を歌っちゃったんだ?人を指さすって失礼なことだってお母さんから教えられなかったっけ?ああ、もう今すぐ消えていなくなりたい。その後の記憶はなく、気が付いたらいつものようにベッドの上で朝を迎えていた。